永田法による小耳症手術

TEL0466-55-6737

MENU

他の方法との違い

はじめに

永田悟医師が開発した永田法により、当時Tanzer法やBrent法が主流であった小耳症手術が飛躍的に進化しました。永田法は片側の小耳症で2回手術(1回目に肋軟骨移植術、2回目に耳介挙上術)を行います。現在では永田法から派生した永田変法も含め、世界的に広く普及している術式です。
日本には1回目の手術で組織拡張法や、耳垂をスイッチバックさせる方法など永田法以外の手術を行っている施設もあります。また2回目の手術で耳を分離して植皮を行うだけの手術が行われるなど、永田法が普及していない現実があります。これは永田法が日本の小耳症手術の診療保険点数制度ではカバーしきれないためだと考えられます。
1回目の手術で4本の肋軟骨を使用して耳の形を作り、2回目の手術で血行の豊富な浅側頭筋膜を使って耳を立てる手術が永田法です(頭髪低位症例、他院修正症例は除く)。
生前永田先生は、「耳をつくる時は、軟骨をケチってはダメだ。取る本数が多いから胸が凹むわけではない。取り方に問題がある。また耳を立てる時は、生きた血管膜(浅側頭筋膜)を使って裏側から作製した耳をカバーしないと、将来耳が倒れてくる可能性が高い」と常に言っていました。
永田先生は2022年1月に急逝され、病院も閉院となりましたが、永田法は素晴らしい術式です。20年以上永田先生と一緒に小耳症手術を行ってきた医師として、決して永田法を途絶えさせることがないよう、改良を加えながら後世に引き継いでいきます。

※ここに供覧した症例は、小耳症の手術をご理解いただくためのものです。症例により結果は異なります。

◆小耳症治療の術後合併症

気胸[2000例に1例]、禿髪、皮弁の部分壊死、 移植肋軟骨部分露出、浅側頭動静脈の先天性血行不良による植皮の生着不良など
上記のような合併症が生じた場合は、症状に対処する再手術を行う場合もあります。

手術適応時期

「年齢が10歳以上、かつ胸囲が60cmを超えている」ことが望ましいです。

*ただし年齢が10歳以下でも胸囲が60cmを超えていれば、手術可能です。

*片側の耳が小さい場合は胸囲が60cm以下でも、手術可能です。

手術の方法(永田法)

小児麻酔専門医による全身麻酔で、2回(両側の場合は4回)行います。

1回目:肋軟骨移植術

耳の形には凹凸があります。その凹凸を表現するためには、十分な皮膚の表面積と高低差を確保できる肋軟骨で作製したフレームが必要です。そのため永田法では6~9番の肋軟骨を4本採取します。「たくさん肋軟骨を採取すると胸が凹む」と、3本しか採取しない施設もあります。しかし採取する際に肋軟骨膜を残しておけば、軟骨は再生されるため凹みません。胸が凹むのは採取方法に原因があります。耳介を正確に形成するため、肋軟骨は4本必要です。

施術前

採取した肋軟骨

肋軟骨フレーム

フレーム移植後

2回目:耳介挙上術

耳を側頭部から分離しただけでは耳は立ちません。耳をしっかり立てるため、永田法ではまず反対側の6、7番の肋軟骨を1~2本(両側小耳症の場合は同側の4、5番の肋軟骨を1~2本)採取します。そして側頭部と分離した耳の後面に、細工した肋軟骨を移植し、更に浅側頭筋膜(TPF)と頭から採皮した皮膚を移植して、補強します。

※ここに供覧した症例は、小耳症の手術をご理解いただくためのものです。症例により結果は異なります。

◆小耳症治療の術後合併症

気胸[2000例に1例]、禿髪、皮弁の部分壊死、 移植肋軟骨部分露出、浅側頭動静脈の先天性血行不良による植皮の生着不良など
上記のような合併症が生じた場合は、症状に対処する再手術を行う場合もあります。

永田法による耳介挙上術の従来法との違い

  • 「側頭部から耳を切り離し、鼠径部(足の付け根)の皮膚を移植する」のではなく、永田法では耳の裏側をしっかり支えるため肋軟骨を移植します。支えとなる肋軟骨の上は、皮膚を移植してカバーする必要がありますが、直接軟骨の上に皮膚を移植しても血行がよくないと生着しません。他施設では、周囲の組織でカバーするなどの方法が採られていますが、血行がよいとはいえません。永田法では浅側頭動脈を茎とする血行のよい浅側頭筋膜(TPF)によってカバーします。
  • 浅側頭筋膜(TPF)は皮膚を生着させる組織として大変重要ですが、それ以外にも重要な役目を担っています。1回目、2回目で移植した肋軟骨は、その後数十年かけて起こりうるネガティブな変化に十分耐える必要があります。その変化とは、血行が悪いために、「肋軟骨が吸収されて耳の形が崩れる」、「立てた耳が倒れる」などです。 何十年間もきれいでしっかり立ち続ける耳をつくるためにも、血行のよい浅側頭筋膜(TPF)でカバーすることはとても重要なのです。
  • 最後に移植する皮膚ですが、永田法では頭皮を選択します。頭皮は鼠径部の皮膚のように縮みませんし、縮れた毛も生えてきません。特に側頭部(耳の後ろ)の頭皮は耳の後ろの皮膚と場所も近いため、カラーマッチやテクスチャーマッチがよく相性が抜群です。

頭髪低位症例/他院修正症例の再手術

下写真のような頭髪低位(本来耳がある位置まで頭髪が生えている)の症例、または他院修正の症例について

  • ・ 4本の肋軟骨で耳介を作製し、初回の手術から浅側頭筋膜(TPF)と頭皮を移植します。
  • ・ 2回目の耳介挙上術では1~2本の肋軟骨、深側頭筋膜(DTF)もしくは瘢痕弁、頭皮を移植します。

他院で耳介挙上術を行ったが、側頭部から切り離して植皮しただけの症例や、浅側頭筋膜を使用していない症例に対しても再手術を行います。コロナ禍ではマスクが必須となっています。マスクをかけるためにも、耳をしっかり立てることは重要です。


頭髪低位の症例


他院修正の症例

永田法・肋軟骨採取の切開部分

  • ・肋軟骨採取の際に胸部の皮膚を切開します。患者さんの成長の状態、条件によって切開する長さ、部位は異なり、乳房、乳輪部分を切開することもあります。
  • ・切開した部位は瘢痕(傷跡)になります(ケロイド体質の場合、赤く盛り上がる場合があります)。
  • ・成長期が終わって傷が目立つ場合は修正することもできます。

永田法をさらに進化・普及させるための今後の試み

健側(反対側)の耳の形に合わせて作製

両側小耳症以外の症例では、耳は指紋のようなもので、その形状は個々に違います。全て同じ耳を作製するのではなく、肋軟骨移植の時にできるだけ健側(反対側)の耳の形に合わせて作製します。

できるだけ同じ角度で耳立て

耳介挙上の時は眼鏡やマスクがかけられることはもちろん、できるだけ同じ角度で立てます。「耳の上方がよく立っていて、下方(耳たぶ)があまり立っていない」(逆の場合もあります)ときは、それらにも対応して耳を立てます。 また健側の耳があまり立っていない場合は、反対側は角度をつけて立てる必要がないため、土台となる肋軟骨は少なくてすみます。そのため通常は反対側の胸から2本の肋軟骨を採取しますが、1回目の肋軟骨移植でできた胸の傷からアプローチし、5番の肋軟骨を採取して立てます。この場合、胸の傷は1カ所になります。

耳介の組み立て素材の選択

肋軟骨で耳介を組み立てるためにワイヤーと糸で固定します。

入院期間の短縮と術後ケア

経過に問題がなければ、1回目、2回目の手術後2~3週間で退院できます。耳や頭の洗い方、必要があれば消毒の仕方や軟膏の塗り方などを、親もしくは本人が自宅でできるように指導します。

保湿・日焼け予防の周知

保湿と日焼け止め使用の必要性を周知させます。 作製した耳の皮膚は乾燥しやすく、日焼けに弱いため、日々の保湿、日焼け予防の必要性を周知させるように努めます。

子供の自立を応援

子供は18歳で成人し、いつまでも親を頼るわけにはいきません。作製した耳の健康を自分自身で管理できるようにサポートします。

永田法の普及と後身への指導

世界的に普及している永田法は、残念ながら日本では広く普及しているとは言えません。永田法を継承する人材の育成や普及活動に努めます。